なぜBtoB-ECは「使われない」のか?よくある失敗の落とし穴5選と、FAX受注から脱却する成功の秘訣

なぜBtoB-ECは「使われない」のか?よくある失敗の落とし穴5選と、FAX受注から脱却する成功の秘訣B2B-EC
この記事は約6分で読めます。

はじめに:多額の投資をしたのに、BtoB-ECが使われない理由

BtoB-EC(企業間取引ECサイト)は、FAXや電話に依存したアナログな受注業務をデジタル化し、業務効率化や顧客満足度の向上を実現する強力な経営手段です。

しかし、「多額のコストをかけて導入したのに、結局誰も使ってくれない」「現場が混乱し、以前より非効率になった」「結局、慣れたFAXや電話での注文に戻ってしまった」といった、深刻な失敗例も決して少なくありません。

導入の成否を分けるのは、システムの性能ではなく、「導入の進め方」にあります。
なぜBtoB-ECは「使われない」システムになってしまうのでしょうか。

本記事では、多くの企業が陥りがちなBtoB-EC導入の「落とし穴」を具体的に解説し、その失敗から学ぶ「成功の秘訣」を、現場で定着させるためのポイントと共に整理してご紹介します。

第1章:よくあるBtoB-EC導入の失敗パターン5選

なぜBtoB-ECは「使われない」という結果に終わるのでしょうか。
そこには共通する5つの典型的な失敗パターンが存在します。

1. 導入目的が「DX推進」というスローガンになっている

最も多い失敗が、目的の曖昧さです。
「経営層からDX推進と言われたから」「競合も始めたから」といった抽象的な目的だけでスタートするケースです。
現場は「具体的にどの業務を・どれだけ効率化するのか」が分からず、システム要件も曖昧になります。
結果として、誰も使わない高価なシステムが完成してしまいます。

2. 現場の声を無視した「情シス主導」のシステム設計

情報システム部門が主導し、現場の業務フローを理解しないまま「あるべき論」でシステムを設計してしまうパターンです。
実際に受発注を行う営業部門や業務部門、そして何より「顧客(発注担当者)」の意見を取り入れないため、「この機能が使いにくい」「FAXの方が早かった」「余計に時間がかかる」と現場から不満が噴出。
利用率は全く伸びません。

3. 「導入して終わり」の教育不足とフォロー体制の欠如

システムが完成し、説明会を一度行っただけで、その後のフォローが何もないケースです。
特にBtoBの取引先は、ITリテラシーが高くない担当者も多く存在します。
「使い方がわからない」「ログインが面倒」という最初のつまずきを解消できず、結局は慣れたFAXや電話での注文に逆戻りしてしまいます。

4. 自社の商習慣とシステムの「ミスマッチ」

BtoB取引は、BtoCと異なり「顧客ごとに価格が違う」「掛け率が複雑」「月末締めの掛け払い」といった独自の商習慣があります。
この特殊性を無視し、標準機能だけの安価なシステムを導入した結果、自社の業務フローに全く合わず、現場が混乱するケース。
逆に、あらゆる例外に対応しようと過剰なカスタマイズを行い、莫大なコストと時間がかかった挙句、将来のバージョンアップも困難になるケースもあります。

5. 効果測定(KPI)がなく「やりっぱなし」

「導入して何が変わったのか」を誰も測定していないパターンです。
「Webからの注文率は何%に上がったか」「FAXの転記作業時間は月何時間削減できたか」といったKPI(重要業績評価指標)を導入前から設定していないため、効果が見えません。
効果が分からない施策は社内で重要視されず、次第に誰も改善活動を行わなくなり、プロジェクトは挫折します。

第2章:失敗から学ぶ「使われるBtoB-EC」成功の秘訣

では、上記の失敗を克服し、BtoB-ECを成功に導くためには何をすべきでしょうか。
重要なのは「システム」ではなく「人」と「プロセス」です。

1. 明確な目的を「現場の言葉」と「数値」に落とし込む

「DX推進」といったスローガンではなく、「FAXの転記作業時間を月間100時間削減する」「受注ミスによるクレーム対応コストを年間50万円削減する」といった、現場が共感できる具体的な数値目標を設定します。
目的を明確にすることで、必要な機能(要件)もおのずと定まります。

2. 「現場」と「顧客」を徹底的に巻き込んだ要件定義

システム設計の主役は、情シスではなく、それを使う「営業」「業務部門」、そして「顧客」です。
特に、BtoB-ECの利用率が高い優良顧客数社にヒアリングを行い、「どんな機能があれば使いたいか」「今の発注の何が不便か」を徹底的に洗い出します。
現場の「欲しい機能」を優先的に取り入れ、発注側の体験をシミュレーションしながら設計を進めます。

3. 「教育」ではなく「定着支援」の仕組み化

導入はゴールではなくスタートです。
「定着」こそがゴールです。
・マニュアル:分厚いマニュアルではなく、ログイン方法や再注文方法だけを抜粋した「A4一枚の簡易マニュアル」や「1分の操作動画」を用意します。
・初回サポート:最も重要な施策です。
営業担当者が顧客訪問時に、その場で初回ログインと注文操作を一緒にサポートします。
・フォロー体制:利用状況をシステムで可視化し、まだ一度もログインしていない顧客には営業から個別にフォロー電話を入れます。

4. 「スモールスタート」で適切なカスタマイズ設計

最初から完璧な100点を目指す必要はありません。
まずは「必須の機能(顧客別価格・再注文機能など)」だけに絞って最小限のカスタマイズで運用を開始(スモールスタート)します。
実際に使ってもらいながら成果を確認し、現場や顧客からのフィードバックを元に、段階的に機能を追加(アジャイル開発)していく方が、結果的に失敗が少なく、現場にフィットしたシステムが完成します。

5. KPIを設定し、必ずPDCAを実践する

「Web注文率」「ログイン率」「再注文率」「客単価」といったKPIを毎月測定します。
数値が伸び悩んでいる場合は、その原因(例:A社はログインしているが注文がない → 使い方が分からないのでは?)を分析し、次の施策(例:A社に営業が再度訪問しレクチャー)に反映させます。
「定着」を感覚ではなく「数値」で評価する文化を作ることが重要です。

第3章:成功事例から学ぶ「現場定着」のヒント

これらの秘訣を実践し、成功した企業の事例を簡潔にご紹介します。

事例1:製造業A社(FAX受注からの移行)

・課題:FAX受注の転記作業(月80時間)が、人手不足の中で限界に。
・施策:目的を「転記作業時間の半減」に設定。
特に注文量の多い上位30社に絞って、営業が訪問しEC利用への切り替えを徹底サポート。
・成果:注文処理時間が月50時間削減。
創出されたリソースを営業活動に回せるようになり、結果として既存顧客への深耕営業が進み、売上も10%増加しました。

事例2:卸売業B社(顧客の囲い込み)

・課題:顧客の発注が電話やFAXに分散し、利便性が低くリピート率が伸び悩んでいた。
・施策:顧客専用の価格表示はもちろん、「ワンクリック再注文機能」を最優先で実装。スマホからの操作性(UI)にもこだわりました。
・成果:顧客(発注担当者)から「発注が圧倒的に楽になった」と高評価。
EC利用顧客のリピート率が20%改善し、顧客の囲い込みに成功しました。

事例3:医療業C社(システム連携による効率化)

・課題:電子カルテの使用実績と、医療資材の発注システムが連携しておらず、二重入力が発生していた。
・施策:BtoB-ECシステムと電子カルテ、在庫システムをAPIで連携。
在庫・納期確認もEC上で自動化しました。
・成果:二重入力が撲滅され、現場からの「在庫ある?」という問い合わせ電話も30%減少。
医療スタッフの事務負担を大幅に軽減できました。

まとめ:BtoB-EC導入は「システム導入」ではなく「業務改革プロジェクト」

BtoB-ECの導入は、ただシステムをインストールするだけでは、高い確率で失敗します。
「使われないシステム」という最悪の投資にならないために、以下の点が不可欠です。

・導入目的を「数値」で明確にする
・使う人(現場と顧客)を設計段階から巻き込む
・導入後の「定着支援」こそが本番と心得る
・KPIを設定し、改善のPDCAを回し続ける

これらを「業務改革プロジェクト」として実践することで、BtoB-ECは「使われないシステム」から、貴社の「事業成長を強力に支える基盤」へと必ず進化します。

まずは御社の「FAX受注の何が課題か」「BtoB-ECで解決すべきテーマは何か」を整理することから始めてみてはいかがでしょうか。

投稿者プロフィール

OSAMU HORIKAWACEO
関西大学卒業後、東証プライム上場企業ゼネコンにて人事総務業務に従事。
幼少よりモノ作りが好きだったこともあり、「モノを作る仕事がしたい」という思いからシステムベンダーへ転職。

システムベンダーでは、IBMオフコンAS400で金融、物流、販売管理、経理、人事総務などのシステムを開発。
台北に駐在し遠東國際商業銀行のシステム構築プロジェクトへの参画など貴重な経験を積む。
10年間で、プログラマ、SE、プロジェクトリーダー、プロジェクトマネージャーを務め、「システムの質は要件定義の質に比例する」と学ぶ。

その後、クレジット決済代行会社にヘッドハンティングされる。
決済システムの再構築、国内外の銀行システムとの接続、クライアントの会社サイト制作・ECサイト構築を行う。
一方、組織改革を任され、20名から60名へ会社規模を拡大させる。(退任時役職:常務取締役)

2008年クリエイティブチーム・サンクユーを立ち上げ、2010年に法人化し株式会社サンクユーを設立。

クライアントの業界、取扱商材、ターゲット顧客を理解・分析することで、結果が出るWEBサイトを制作することを得意とする。
また、ECサイト構築・運営への造詣も深く、NTTレゾナント株式会社が運営するgoo Search Solutionでコラムを執筆。
ECマーケティングレポート | goo Search Solution


■趣味・好きなもの
BMW / WRC / ロードバイク / RIZIN / Bellator / UFC
David Bowie / blur / MUSE / TheRollingStones / XTC
機動戦士ガンダム(ファースト) / 富野由悠季
ベルセルク / 頭文字D / 進撃の巨人 / ジョジョの奇妙な冒険 / あしたのジョー
Mission: Impossible / Memento / ワイルド・スピード / ソナチネ
LOST / Game of Thrones / FRINGE / The Mentalist
上岡龍太郎 / ダウンタウン

お気軽にご相談ください

お気軽にご相談ください

タイトルとURLをコピーしました