はじめに:FAX注文のままでは限界がある
現在でも多くの企業が、取引先との注文手段としてFAX注文を使い続けています。
特に製造業、卸売業、印刷業といったBtoB取引中心の業界では、長年の慣習や顧客との関係性、業務フローの都合から「変えたくても変えられない」という声をよく耳にします。
しかし、人手不足、働き方改革、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の流れの中で、FAXによるアナログ受注はますます非効率さが際立っています。
受注処理の遅延、人的ミス、情報共有の遅れは、顧客満足度の低下や売上機会の損失にも直結します。
この記事では、FAX注文からBtoB-ECへの移行に成功した製造・卸売・印刷の5社の事例を紹介します。
単なる効率化ではなく、顧客満足度や売上にもつながった実践的な事例から、自社に応用できる改善のヒントを見つけてください。
事例1:製造業(部品加工)|繰り返し注文をEC化して再発注を効率化
背景
取引先からの定番部品の発注が毎回FAXで届き、手書き文字の読み間違いや品番記載ミスが多発しました。
確認のための電話やメールのやりとりが増え、受注処理が遅れる原因となっていました。
解決策
BtoB-ECに「再注文機能」と「注文履歴検索機能」を追加しました。
過去の注文データをワンクリックで再利用できるようにしました。
FAX利用に慣れた顧客のために、写真入りの「注文マニュアル」や操作動画も提供し、スムーズな移行を実現しました。
成果
- リピート注文の大半がWeb経由に移行
- 誤出荷・納期遅延が激減
- 受注入力時間が50%削減され、検品・確認作業も簡素化
これにより、生産計画の精度が向上し、在庫管理コスト削減にもつながりました。
事例2:卸売業|掛売対応と価格別表示機能でEC移行に成功
背景
取引先ごとに掛率や支払条件が異なるため、EC化が難しいとされていました。
価格や条件を確認する必要がある注文は、FAXや電話で対応せざるを得ず、受注業務の複雑化が進んでいました。
解決策
BtoB-ECにログイン制を導入し、顧客別の価格表示や送料設定を自動化しました。
掛売後払い機能も組み込み、従来の請求フローとの整合性を保ちつつ移行を実施しました。
成果
- 電話応対時間を月40時間以上削減
- FAX注文を70%以上削減
- 「24時間いつでも注文できる」と顧客から好評
注文時間の制限がなくなり、夜間や休日の受注も増加しました。
売上の平準化にも寄与しました。
事例3:印刷会社|名入れ印刷の注文をWeb化し、手入力ゼロに
背景
名刺や封筒など名入れ印刷の注文は、毎回内容が異なり、FAXや電話でのやりとりが常態化していました。
注文内容の確認、手入力によるデータ登録、校正確認など、多くの工数が発生していました。
担当者によっては、FAX文字の読み違いや伝達漏れが発生し、印刷ミスにつながることもありました。
解決策
BtoB-ECサイトを構築し、顧客ごとに専用のログインページを用意しました。
フォーム上で「会社名」「ロゴデータ」「印刷色」「部数」などを入力・アップロードするだけで発注できる仕組みに変更しました。
注文内容は自動でシステム登録され、校正データもオンライン上で共有可能になりました。
成果
- 手書き・電話対応が激減し、FAX注文比率は90%→10%に
- 校正ミスや誤印刷がゼロに
- 営業担当者が新規提案や販促企画に時間を割けるように
生産部門との連携スピードも向上し、納期短縮やリピート率向上にも寄与しました。
事例4:建材メーカー|見積書発行+注文連携の自動化
背景
代理店や工務店からの見積依頼はFAXやメールで届き、その都度手作業で見積書を作成していました。
受注時にも同じ情報を再入力する必要があり、二重作業が慢性化していました。
解決策
BtoB-EC上に見積機能を実装しました。
顧客が条件を入力すると自動でPDF見積書を生成し、そのまま注文に連携できるようにしました。
見積内容と注文データが一元化され、二重入力が不要になりました。
成果
- 見積作成時間を30分→5分に短縮
- 注文データの再入力ゼロ
- 納期回答・在庫確認もオンラインで即時対応
受注処理スピードが向上し、顧客満足度も改善しました。
事例5:販促グッズOEM業|オプションの多い注文もECで対応
背景
ロゴ・色・包装・納期・配送先など、複数条件が絡む注文が多く、FAXやExcelでは確認漏れや誤解が頻発していました。
解決策
カスタムオーダーフォームとファイル添付機能を実装しました。
顧客が仕様をWeb上で直接入力・確認可能にしました。
条件分岐を活用し、入力ミスを防ぐUIも整備しました。
成果
- 確認電話が8割減少
- 受注対応工数を60〜80%削減
- 返品・再制作率が大幅に低下
営業担当者は新規開拓や商品開発に時間を使えるようになり、売上拡大にも貢献しました。
FAX注文からEC化へ移行する際の3つのポイント
- 段階的移行を前提にする
ITリテラシーの高い顧客から順に移行し、一定期間はFAXとWebを併用して混乱を防ぎます。 - 顧客ごとの発注習慣に合わせる
専用商品ページや再注文ボタンなど、使いやすさを優先して設計します。 - 社内外の教育をセットで行う
社内マニュアルや顧客向け操作ガイドを用意し、不安や抵抗感を最小限に抑えます。
まとめ:FAXをやめるのではなく、“変える”ことで現場が楽になる
FAX注文の課題は、業界や規模を問わず共通しています。
しかし、いきなり全面廃止ではなく、段階的なBtoB-EC化を行うことで、現場負担を抑えつつ効率化を実現できます。
BtoB-ECは単なる受注効率化のツールではなく、売上の安定化・顧客満足度向上・働き方改革にも直結する重要な仕組みです。
2025年は、こうしたEC化の取り組みが競争力を左右する年になるでしょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. FAX注文からBtoB-ECに移行するのにどれくらいの期間がかかりますか?
企業規模や商品の種類、既存システムとの連携方法によって異なりますが、一般的には3〜6か月程度が目安です。
小規模なシステムであれば1〜2か月で稼働するケースもあります。
段階的に移行することで、顧客や社内の混乱を防ぎつつ短期間での導入も可能です。
Q2. 顧客が高齢でIT操作に慣れていない場合はどうすればいいですか?
操作マニュアルや動画チュートリアルを用意するほか、初期の注文はFAXとWebを併用するハイブリッド期間を設けるとスムーズです。
また、専用ログインページや簡易注文フォームを用意することで、操作ステップを減らせます。
Q3. 既存の基幹システムや在庫管理システムと連携できますか?
多くのBtoB-ECシステムはAPIやCSV連携に対応しており、受注データを既存システムに自動連携可能です。
RPAを活用して定型作業を自動化する方法もあります。
導入前に要件定義を行い、システム連携の範囲や方法を明確にしておくことが重要です。
Q4. FAXからECへの移行でコストはどのくらいかかりますか?
初期費用はシステム構築やデザイン、機能カスタマイズの内容によって数十万〜数百万円程度が一般的です。
クラウド型サービスを利用すれば、初期費用を抑えて月額課金型で導入することも可能です。
ROI(投資回収期間)を事前に試算して判断することをおすすめします。
Q5. EC化によって本当に業務効率は上がりますか?
受注の自動化により、入力作業や確認電話が減り、人的ミスも大幅に削減されます。
また、顧客側も24時間発注できるため、受注量の平準化や売上機会の拡大につながります。
多くの事例で、業務時間の30〜50%削減が実現しています。
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投稿者プロフィール
- CEO
- 関西大学卒業後、東証プライム上場企業ゼネコンにて人事総務業務に従事。
幼少よりモノ作りが好きだったこともあり、「モノを作る仕事がしたい」という思いからシステムベンダーへ転職。
システムベンダーでは、IBMオフコンAS400で金融、物流、販売管理、経理、人事総務などのシステムを開発。
台北に駐在し遠東國際商業銀行のシステム構築プロジェクトへの参画など貴重な経験を積む。
10年間で、プログラマ、SE、プロジェクトリーダー、プロジェクトマネージャーを務め、「システムの質は要件定義の質に比例する」と学ぶ。
その後、クレジット決済代行会社にヘッドハンティングされる。
決済システムの再構築、国内外の銀行システムとの接続、クライアントの会社サイト制作・ECサイト構築を行う。
一方、組織改革を任され、20名から60名へ会社規模を拡大させる。(退任時役職:常務取締役)
2008年クリエイティブチーム・サンクユーを立ち上げ、2010年に法人化し株式会社サンクユーを設立。
クライアントの業界、取扱商材、ターゲット顧客を理解・分析することで、結果が出るWEBサイトを制作することを得意とする。
また、ECサイト構築・運営への造詣も深く、NTTレゾナント株式会社が運営するgoo Search Solutionでコラムを執筆。
ECマーケティングレポート | goo Search Solution
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