受注・データ基盤シリーズ 第2回
この記事でわかること
BtoB取引では、取引先ごとに掛率が違う・数量で単価が変わる・特定商品だけ特価、といった複雑な価格が当たり前です。この価格が「ベテラン担当者の頭の中」や「個人のExcel」に留まっていると、見積ミスや属人化の温床になります。本記事では、BtoB特有の価格パターンを整理し、掛率・得意先別価格を属人化させないためのマスタ化・ルール化の考え方、そしてBtoB-EC(EC-CUBE)での会員別価格の扱い方までを解説します。
「うちは取引先ごとに値段が違うから、ECなんて無理」。BtoBの受注をWeb化しようとすると、最初にぶつかるのがこの価格の問題です。
でも、順番が逆です。価格が複雑だからECにできないのではなく、価格が整理されていないからうまくいかないのです。掛率は、商品マスタや取引先マスタと並んで、受注・データ基盤の中核をなす要素です。この記事では、その整理の仕方を見ていきます。
掛率・得意先別価格とは(BtoBの価格の複雑さ)
掛率とは、定価(上代)に対して、その取引先にいくらで卸すか(下代)を示す割合です。「A社は定価の80%(8掛け)、B社は75%(7.5掛け)」というように、取引先ごとに異なるのが一般的です。
BtoCのECは、基本的に「誰が見ても同じ価格」です。ところがBtoBは、取引先との関係・取引量・契約条件によって、価格が一社ごとに変わります。この“価格の出し分け”こそが、BtoB受注の難しさであり、同時にBtoB-ECで設計が必要になる中心部分です。
BtoBでよくある価格パターン
ひとことで「取引先ごとに価格が違う」と言っても、実際には複数のパターンが組み合わさっています。自社がどれに当てはまるか、確認してみてください。
| 価格パターン | 内容 | よくある例 | 重なったときの優先(例) |
|---|---|---|---|
| 得意先別価格(掛率) | 取引先ごとに掛率・下代が決まっている | A社は8掛け、B社は7.5掛け | 基準(ベース) |
| 商品別価格 | 特定の商品だけ、個別の取引価格を設定 | 主力商品だけ特別価格 | 基準(商品単位) |
| 数量別価格 | 発注数量に応じて単価が変わる | 100個以上で単価ダウン | 中 |
| 期間限定価格 | キャンペーン・特売期間だけの価格 | 決算期の特価、月間セール | 高(一時的に上書き) |
| メーカー別・カテゴリ別 | メーカーやカテゴリ単位でまとめて掛率を設定 | このメーカーは一律◯掛け | 基準の前提 |
| 個別見積(スポット) | 都度の交渉で価格が決まる | 大口・特注のスポット取引 | 最優先 |
価格が決まるまで(例)
▼
メーカー/対象商品の価格
▼
数量条件(100個以上)
▼
期間(キャンペーン)
▼
例外(スポット値引き)
▼
最終価格
※どの段階を優先するかを決めておくことが、価格を属人化させない鍵になります。
価格が属人化すると何が起きるか
| 属人化した価格運用 | 起きること |
|---|---|
| 掛率がベテラン担当者の頭の中にある | その人が不在・退職すると、正しい見積が出せない |
| 価格表が個人のExcelに散在している | どれが最新か分からず、古い価格で受注してしまう |
| 例外・特価が口頭やメールで決まる | 「言った言わない」や、請求金額の食い違いが起きる |
| 価格の根拠が記録されていない | なぜこの価格なのか誰も説明できず、引き継げない |
Excel運用の限界
多くの会社が、価格をExcelで管理しています。Excel自体が悪いわけではありません。問題は、取引先×商品×数量×期間という複数の軸が絡み始めると、Excelでは急速に管理しきれなくなることです。
- 取引先が増えるほど、シートやファイルが分裂していく
- 価格改定のたびに、複数ファイルを手作業で直す必要がある
- 「誰が最新版を持っているか」が分からなくなる
- 例外価格が別表・別メモになり、本表と食い違う
Excelは「一覧を作る」のは得意ですが、「常に正しい価格を1つに保つ」のは苦手です。ここが、価格をシステム(マスタ)で持つべき理由です。
掛率・価格の整理から相談したい方へ
「掛率がベテランしか分からない」「価格表のExcelが増えすぎた」——現在の価格運用を見せていただければ、どう整理し、どこまでシステム化できるかをご提案します。まずは現状の棚卸しからご相談いただけます。
価格を属人化させない設計
価格を属人化させないための考え方は、次の順番で整理できます。
- 1
価格ルールを明文化する
「誰が見ても同じ結果になる」ように、掛率・数量条件・適用期間を言語化します。ベテランの頭の中にある判断を、ルールとして書き出すことが出発点です。
- 2
商品マスタ・取引先マスタに紐づける
価格は「どの商品を・どの取引先に」で決まります。整った商品マスタと取引先マスタがあって初めて、価格ルールを正しく紐づけられます。だから商品マスタの整備が先なのです。
- 3
システムで価格を自動判定する
ルールとマスタが揃えば、「この取引先がこの商品をこの数量で頼んだら、いくら」をシステムが自動で出せます。人の記憶に頼らず、いつでも同じ価格が出る状態にします。
- 4
例外は「例外として登録」する
特価やスポット価格を口頭で済ませず、期間や条件を付けて記録します。例外を仕組みの中に取り込むことで、「言った言わない」をなくせます。
BtoB-EC(EC-CUBE)での価格の扱い方
価格ルールとマスタが整理できれば、BtoB-ECはその通りに価格を出し分けられます。EC-CUBEのようにカスタマイズできる仕組みなら、BtoB特有の価格要件にも柔軟に対応できます。
| BtoB-ECで実現できること | 内容 |
|---|---|
| 会員別(取引先別)価格の表示 | ログインした取引先ごとに、その会社の価格だけを表示する |
| ログイン後のみ価格表示 | 取引のない相手に価格を見せない(BtoBでは重要な要件) |
| 数量別価格 | 発注数量に応じて単価を自動で切り替える |
| 商品表示の制限 | 取引先の属性に応じて、見せる商品・見せない商品を制御する |
大切なのは、これらの機能は「価格ルールが整理されている」ことが前提だという点です。ECは、整理された価格をその通りに動かす仕組みであって、乱れた価格を勝手に整えてはくれません。ここでも、まず土台(マスタとルール)が先になります。
自社の受注・データ基盤の全体像は、シリーズの親記事「AI活用の前に整えるべき受注・データ基盤とは」で整理しています。サンクユーでは、受注・データ基盤の現状を10項目で整理する診断も試験的に用意しています。
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よくある質問
得意先ごとに価格が違っても、ECで対応できますか?
できます。EC-CUBEのようにカスタマイズできる仕組みなら、ログインした取引先ごとに、その会社専用の価格だけを表示する「会員別価格」を実現できます。あわせて、ログインした人にだけ価格を見せる・取引先の属性に応じて商品を出し分ける、といったBtoB特有の要件にも対応できます。ただし前提として、価格ルールが整理されている必要があります。
今のExcelの価格表のまま、ECにできますか?
そのままでは難しいことが多いです。Excelの価格表は、人が見て判断する前提で作られているため、例外や口頭ルールが混じっていることがよくあります。ECにする前に、価格ルールを明文化し、商品マスタ・取引先マスタに紐づく形に整理する工程が必要です。この整理こそが、属人化を解消し、ECを安定させる肝になります。
数量割引や期間限定価格も設定できますか?
可能です。数量に応じて単価が変わる数量別価格や、キャンペーン期間だけの期間限定価格も、要件に応じて設計できます。ただし、条件が複雑になるほど設計とテストの工数は増えます。「本当に必要な条件はどれか」を整理してから実装する方が、コストを抑えつつ確実に動く仕組みになります。
価格ルールの整理だけを相談できますか?
ご相談いただけます。EC構築とあわせて行うことが多いですが、まず自社の掛率・価格ルールを言語化・整理したい、という段階からのご相談も歓迎です。価格の整理は、EC以外の見積・受注・請求業務にもそのまま効くため、EC導入前の準備としても意味があります。現状の運用を拝見し、進め方をご提案します。
掛率・価格管理、BtoB-ECについてご相談ください
「取引先ごとの価格が属人化している」「複雑な価格でもECにできるか知りたい」——EC-CUBE構築・BtoB-EC専門として、価格ルールの整理から、会員別価格を含むEC構築までを一貫してお手伝いします。まずはお気軽にご相談ください。
投稿者プロフィール

- CEO
- 株式会社サンクユー 代表取締役CEO。
基幹システムとECをつなぎ、受発注業務の最適化を支援する専門家。
関西大学卒業後、東証プライム上場のゼネコンにて人事総務を経験。
その後システムベンダーへ転職し、IBM AS/400環境における金融・物流・販売管理・経理・人事など、企業の基幹業務を支えるシステム開発に従事する。
プログラマからプロジェクトマネージャーまでを経験し、台湾・台北駐在として銀行システム構築プロジェクトにも参画。
この経験を通じて、「システムの質は要件定義の質に比例する」という思想を確立。
業務理解を起点としたシステム設計を強みとする。
その後、クレジット決済代行会社にて、決済システムの再構築や銀行連携、ECサイト構築を担当。
あわせて組織改革にも携わり、20名から60名規模への組織拡大を実現(退任時:常務取締役)。
2008年に株式会社サンクユーを創業、2010年に法人化。
現在は、基幹システムとECの両領域に精通した知見を活かし、BtoB企業における受発注業務のデジタル化・効率化を支援。
特に、FAX・電話・メールなどアナログ業務のEC化や、基幹システムとの連携を前提とした業務設計を得意とする。
単なるECサイト構築にとどまらず、業務フローの整理・要件定義・システム設計まで一貫して関与し、「現場で使われる仕組み」を実現することを重視している。
NTTレゾナント「goo Search Solution」にてEC関連コラムを執筆。
ECマーケティングレポート | goo Search Solution
■趣味・関心領域
BMW / WRC / ロードバイク / RIZIN / UFC / 大相撲
David Bowie / blur / MUSE / The Rolling Stones / XTC
機動戦士ガンダム(富野由悠季)
ベルセルク / 頭文字D / 進撃の巨人 / ジョジョの奇妙な冒険 / あしたのジョー
Mission: Impossible / Memento / ワイルド・スピード / ソナチネ
LOST / Game of Thrones / FRINGE / The Mentalist
上岡龍太郎 / ダウンタウン








