この記事でわかること
「ECを導入すると誰の仕事が減るのか」「営業は不要になるのか」「受注担当はどうなるのか」——BtoB-EC導入で必ず議論になるのが仕事の変化です。これは避けて通れません。BtoB-ECは単なるシステム導入ではなく、組織の役割再設計だからです。本記事では、減る業務・増える業務を整理し、役割再設計を怠った企業が陥る失敗と、成功企業が必ず行う3つの整理を解説します。
前提:仕事は「消える」のではなく「変わる」
BtoB-EC導入で仕事がゼロになる人は、基本的にいません。変わるのは仕事の中身です。具体的には次の3つが変わります。
| 変わるもの | 導入前 | 導入後 |
|---|---|---|
| 作業の種類 | 受注入力・確認・転記などの処理作業 | 提案・データ活用・EC運用などの高度業務 |
| 時間配分 | 処理作業に時間の大半を費やす | 価値創出活動に時間を使える |
| 評価基準 | 処理件数・対応スピード | 提案成果・顧客深耕・売上貢献 |
この変化を「設計」しないまま導入すると、現場は「自分の仕事が奪われる」という不安や「新しい業務を押し付けられた」という反発を抱きます。役割の変化を事前に設計することが、導入成功の前提条件です。
仕事が減る可能性がある業務
BtoB-EC導入で削減される業務を整理します。重要なのは「人」が減るのではなく「単純作業時間」が減るという点です。
| 対象 | 減る業務 | 削減後にどうなるか |
|---|---|---|
| 受注担当者 | 電話・FAX・メール注文の転記、単価確認、在庫確認、基幹システムへの入力 | 処理作業から解放され、例外対応・取引先サポート・データ管理にシフトできる |
| 営業担当者 | 価格確認・納期確認・在庫確認の問い合わせ対応、受注内容の確認電話 | 受注処理から解放され、提案・開拓・顧客深耕に時間を使える |
受注担当者の業務が大きく減るため、「この人たちの仕事がなくなるのでは」という不安が生まれやすい。しかし実際には、減った時間を例外対応・EC運用・取引先サポートに再配分することで、役割は維持されます。この再配分を設計することが重要です。
仕事が増える・高度化する業務
① 提案型営業
受注処理から解放された営業は、価値を生む活動にシフトできます。
- 新規開拓・アポイント獲得
- 関連商品・上位商品の提案(アップセル・クロスセル)
- 購買データに基づく深耕営業
- 価格改定の交渉
「作業」は減りますが「価値創出」は増えます。営業の役割変化の詳細についてはこちらの記事で解説しています。
② EC運用業務(最も見落とされる)
BtoB-EC導入後に新たに発生する業務であり、最も見落とされやすい領域です。これを誰が担うかを決めていない企業は、ほぼ確実に運用段階で混乱します。
| EC運用業務 | 内容 | 担当を決めないと起きること |
|---|---|---|
| 商品登録・更新 | 新商品の登録、商品情報・画像の更新、廃番処理 | 商品情報が古いまま放置され、取引先が正確な発注をできない |
| 価格管理 | 顧客別価格の設定・変更、キャンペーン価格の登録 | 価格変更が反映されず、誤った価格での受注が発生する |
| 顧客アカウント管理 | 新規取引先のアカウント発行、権限設定、退会処理 | アカウント発行が滞り、取引先のEC利用開始が遅れる |
| データ更新・メンテナンス | 在庫情報の同期確認、連携エラーの対応 | データのずれが放置され、在庫誤差・受注ミスが増える |
③ データ活用業務
BtoB-ECには受注データが蓄積されます。これは営業戦略の資産ですが、活用する担当を決めなければ宝の持ち腐れになります。
- 購買履歴の分析(誰が・何を・どのくらいの頻度で買っているか)
- 単価推移の把握(値上げ交渉のタイミング判断)
- 休眠顧客の抽出(フォローすべき顧客のリストアップ)
- 発注サイクルの分析(先回り提案のための基礎データ)
「データが溜まる」と「データを活用する」は別物です。誰がこのデータを見て、誰が営業アクションに変換するのか。この役割を決めることで、データが売上に変わります。
役割再設計を怠った企業が陥る失敗
役割再設計をしないまま導入すると、決まったパターンで失敗します。
| 怠ったこと | 現場で起きること | 結果 |
|---|---|---|
| 仕事が減る人の不安を放置した | 受注担当者が「自分の仕事がなくなる」と感じ、EC移行に非協力的になる | EC移行が進まない・現場が抵抗する |
| 増える業務(EC運用)の責任者を決めなかった | 商品登録・価格更新が放置され、ECの情報が古くなる | 取引先がECを使わなくなる |
| 評価制度を変えなかった | 営業が従来の「受注件数」で評価されるため、EC推進や提案活動に動機が湧かない | 営業がECを推進しない |
| データ活用の担当を決めなかった | 蓄積されたデータが誰にも見られず放置される | 投資効果の半分が実現しない |
これらの失敗に共通するのは、「システムは入れたが、組織を変えなかった」ことです。BtoB-ECはシステムと組織がセットで初めて機能します。
成功する企業が必ず行う3つの整理
- 1
業務棚卸し:現状の受注フローを可視化する
誰が・何を・どのタイミングでやっているかを書き出します。受注処理・確認業務・例外対応・価格管理など、現状の業務を洗い出すことで、「何が減り、何が新たに必要になるか」が見えてきます。この棚卸しなしに役割再設計はできません。
- 2
役割再定義:削減時間の再配分先を決める
受注処理が減った人が、その時間を何に使うかを決めます。受注担当者はEC運用+例外対応へ、営業は提案活動へ、というように再配分先を明確にします。「減った時間をどうするか」を決めないと、減った時間が無駄になるか、不安だけが残ります。EC運用の担当を誰にするかも、この段階で必ず決めます。
- 3
評価基準見直し:新しい役割に合った評価に変える
役割が変わるなら、評価も変える必要があります。営業を「受注件数」で評価し続けると、提案活動やEC推進に動機が湧きません。提案成果・顧客深耕・売上貢献を評価指標に組み込むことで、新しい役割に向けて現場が動きます。評価制度の変更は、役割再設計の仕上げです。
「人が余るのでは」という誤解
「受注処理が自動化されると人が余るのでは」という懸念をよく聞きます。結論から言えば、人は余りません。
むしろ、以下の分野で人の手が必要になります。
- 営業強化:これまで時間がなくてできなかった新規開拓・提案活動
- 顧客フォロー強化:既存顧客の深耕・休眠顧客の掘り起こし
- EC運用:商品管理・価格管理・アカウント管理・データメンテナンス
- データ分析:蓄積データを営業戦略に変換する業務
BtoB-ECは「人を削減する仕組み」ではなく「人を単純作業から解放し、価値創出に再配置する仕組み」です。同じ人員で、より付加価値の高い仕事ができるようになる。これが正しい捉え方です。「人を減らす」という発想で導入すると、現場の協力が得られず、かえって効果が出ません。
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よくある質問
EC運用業務は誰が担当するのが適切ですか?
企業によって最適解は異なりますが、受注処理が減った受注担当者が担うケースが多くあります。受注業務に精通しているため、商品・価格・顧客の管理に適性があるからです。専任を置く余裕がない場合は、受注担当者の役割を「処理業務」から「EC運用+例外対応」に再定義するのが現実的です。重要なのは「誰かが片手間でやる」ではなく「この人の業務」として明確に位置づけることです。
役割再設計は導入のどの段階で行うべきですか?
システム導入の前、要件定義と並行して行うべきです。「誰の仕事がどう変わるか」が決まっていないと、そもそもどんな機能が必要かも定まりません。EC運用を誰が担うかによって、管理画面に求める使いやすさのレベルも変わります。役割再設計を後回しにすると、リリース後に「この業務は誰がやるのか」という問題が噴出します。導入前の設計に組み込んでください。
評価制度の変更は人事の問題で、EC導入と一緒に進めるのは難しいのですが。
全社的な人事制度の改定でなくても、まずは「BtoB-EC導入に関わる部門の評価指標を見直す」という限定的な変更から始められます。たとえば営業の評価に「提案件数」「EC利用取引先の拡大」を加えるなど。大がかりな制度改定を待つ必要はありません。役割が変わる現場の評価を、その役割に合わせて部分的に調整するだけでも、現場の動き方は変わります。
受注担当者が「自分の仕事がなくなる」と強く不安がっています。どう対応すればいいですか?
「仕事がなくなる」のではなく「仕事が変わる」ことを、具体的に示すことが重要です。受注処理が減った後に何を担うのか(EC運用・例外対応・取引先サポートなど)を明確に伝えてください。漠然とした「大丈夫」ではなく「あなたの新しい役割はこれです」という具体的な提示が不安を解消します。また、新しい業務に必要なスキル習得のサポートを示すことも有効です。役割再設計を本人と一緒に考えることで、当事者として前向きに取り組めるようになります。
「誰の仕事がどう変わるか」の整理、一緒にやります
業務棚卸し・役割再定義・EC運用の担当決め——システム構築だけでなく、組織設計まで含めた導入支援をしています。「導入したが運用が回らない」を防ぐ役割再設計からご相談いただけます。
投稿者プロフィール

- CEO
- 株式会社サンクユー 代表取締役CEO。
基幹システムとECをつなぎ、受発注業務の最適化を支援する専門家。
関西大学卒業後、東証プライム上場のゼネコンにて人事総務を経験。
その後システムベンダーへ転職し、IBM AS/400環境における金融・物流・販売管理・経理・人事など、企業の基幹業務を支えるシステム開発に従事する。
プログラマからプロジェクトマネージャーまでを経験し、台湾・台北駐在として銀行システム構築プロジェクトにも参画。
この経験を通じて、「システムの質は要件定義の質に比例する」という思想を確立。
業務理解を起点としたシステム設計を強みとする。
その後、クレジット決済代行会社にて、決済システムの再構築や銀行連携、ECサイト構築を担当。
あわせて組織改革にも携わり、20名から60名規模への組織拡大を実現(退任時:常務取締役)。
2008年に株式会社サンクユーを創業、2010年に法人化。
現在は、基幹システムとECの両領域に精通した知見を活かし、BtoB企業における受発注業務のデジタル化・効率化を支援。
特に、FAX・電話・メールなどアナログ業務のEC化や、基幹システムとの連携を前提とした業務設計を得意とする。
単なるECサイト構築にとどまらず、業務フローの整理・要件定義・システム設計まで一貫して関与し、「現場で使われる仕組み」を実現することを重視している。
NTTレゾナント「goo Search Solution」にてEC関連コラムを執筆。
ECマーケティングレポート | goo Search Solution
■趣味・関心領域
BMW / WRC / ロードバイク / RIZIN / UFC / 大相撲
David Bowie / blur / MUSE / The Rolling Stones / XTC
機動戦士ガンダム(富野由悠季)
ベルセルク / 頭文字D / 進撃の巨人 / ジョジョの奇妙な冒険 / あしたのジョー
Mission: Impossible / Memento / ワイルド・スピード / ソナチネ
LOST / Game of Thrones / FRINGE / The Mentalist
上岡龍太郎 / ダウンタウン







