この記事でわかること
BtoB-EC導入の社内合意で、営業部門から「仕事が奪われるのでは」という声が出ることがあります。この懸念は理解できますが、前提が間違っています。BtoB-ECは営業の仕事をなくすのではなく、営業が本来やるべき仕事に集中できるようにするためのものです。何が減り、何が増えるのか。移行期にどう対応するか。具体的に整理します。
導入前:営業の時間はどこに消えているか
多くのBtoB企業の営業担当者は、1日の業務時間をどのように使っているでしょうか。
| 業務カテゴリ | 具体的な内容 | 価値を生む業務か |
|---|---|---|
| 受注処理 | FAX・電話・メールで注文を受け、ERPや受注台帳に入力する | ✗ 処理業務 |
| 単価・在庫確認 | 顧客ごとの適用単価を確認し、在庫・納期を確認して返答する | ✗ 確認業務 |
| 修正・再確認対応 | 入力ミス・数量間違い・価格誤りの修正と取引先への連絡 | ✗ エラー対応 |
| 新規提案・関係構築 | 商品提案・アップセル・クロスセル・新規顧客開拓 | ✓ 価値を生む |
| 既存顧客フォロー | 購買動向の把握・課題ヒアリング・関係深化 | ✓ 価値を生む |
製造業・卸売業の営業担当者に実態をヒアリングすると、処理・確認・エラー対応の3カテゴリで業務時間の40〜60%が費やされているケースが少なくありません(当社ヒアリング実績値。業種・規模によって大きく異なります)。
この状態を、当社では「営業が受注処理係になっている」と呼んでいます。
導入後に変わる5つのこと
① 受注処理から解放される
BtoB-ECで取引先が自分で注文を入力すると、以下が削減されます。
- 受注の電話・FAX・メール対応
- 注文内容のERP入力・転記
- 顧客別単価の手動確認
- 在庫・納期の確認と返答
これらが自動化されることで、1件あたり数分〜十数分の処理時間がゼロに近づきます。月1,000件の受注を処理している会社なら、月間数十〜百数十時間規模の削減になり得ます。
ただし注意点があります。「取引先が全員すぐにECに移行してくれる」わけではありません。移行率は徐々に上がるものであり、移行期間中は旧来の受注対応とEC受注が並行します。この移行設計を怠ると「業務が増えた」という体験になります(移行期の設計については後述します)。
② 「作業」から「提案」へシフトできる
受注処理の時間が減ると、営業担当者には「使えていなかった時間」が生まれます。この時間を何に使うかが、導入後の売上に直結します。
- アップセル提案:定期発注している顧客に対して「より上位の商材」「まとめ買いによる単価改善」を提案できる
- クロスセル提案:購買履歴を見て「この顧客はこの商品も必要なはず」という提案ができる
- 休眠顧客の掘り起こし:発注が止まっている顧客に対して理由を確認し、フォローできる
- 新規顧客開拓:これまで「時間がなくてできなかった」新規アプローチに時間を使える
「受注処理が減ってもどうせ別の作業が増えるだけ」という懸念もあります。これは一面では正しい。処理業務が減った時間を何に使うかを、組織として設計しないと、単に暇になるだけです。「この時間を何に使うか」を営業マネージャーが明確に設計することが必要です。
③ 顧客接点の質が変わる
「EC化すると顧客との接触が減る」という懸念はよく聞きます。確かに、日常的な注文確認の電話は減ります。これは事実です。
ただし、この電話はどういう内容だったでしょうか。
- 「先ほどのFAXの注文ですが、在庫確認できましたか?」
- 「今週の発注、どの価格が適用されますか?」
- 「数量が1ロット割れるのですが、どうすれば?」
これらは顧客にとっても「用件を伝えるだけの電話」です。関係を深める接点ではありません。EC化で減るのはこの種の電話です。
代わりに増える(または増やせる)のは、購買データを根拠にした提案です。「過去3ヶ月の発注データを見ると、このタイミングで在庫切れになっている可能性があります」「このカテゴリの発注量が増えているので、まとめ発注で単価改善できます」——こうした提案は、EC化前の手作業では難しかったものです。
④ 営業評価の軸が変わる
受注処理中心の業務では、評価指標が「何件処理したか」「どれだけ早く対応したか」になりがちです。これは処理速度の評価であって、営業の価値の評価ではありません。
EC導入後は、評価の軸を「売上を創る活動」に移せます。
| EC導入前の評価軸 | EC導入後に移行できる評価軸 | |
|---|---|---|
| 量的指標 | 受注処理件数・対応件数 | 提案件数・新規接触件数・休眠顧客フォロー件数 |
| 質的指標 | 処理スピード・ミスの少なさ | 顧客単価向上率・クロスセル成約率・新規受注額 |
| 成果指標 | (設定しにくい) | 担当顧客の売上成長率・LTV向上 |
評価軸の変更は、営業担当者のモチベーションにも影響します。「処理をこなす人」から「売上を創る人」への役割変化は、処遇の見直しと組み合わせることで、組織全体の活性化につながります。
⑤ データを根拠に動けるようになる
BtoB-ECの受注データが蓄積されると、以下が可視化されます。
- 顧客ごとの発注頻度・発注サイクル
- 購買品目の傾向(よく買うもの・最近買わなくなったもの)
- 発注額の推移(増加・横ばい・減少傾向)
- 季節性・繁閑パターン
これらのデータを使って「勘ではなくデータに基づく営業活動」ができるようになります。「この顧客は毎月第2週に発注しているが今月まだ来ていない。何かあったのか確認してみよう」という動き方は、データなしには気づけません。
営業部門からよく出る3つの懸念と現実的な対応
懸念① 顧客がECを使ってくれない
最も現実的な懸念です。特に長年FAXや電話で発注してきた取引先は、変化を好まないケースがあります。
対応策は以下です。
- 移行を強制しない:特に初期は「ECが使えるようになった」という案内にとどめ、移行を強制しない。取引先のペースに合わせた移行設計が重要
- 営業が移行をサポートする:「ECの使い方を一緒に確認させてください」という形で、取引先への訪問・オンライン説明の機会を作る。これ自体が顧客接点になる
- EC利用のメリットを取引先に伝える:「発注履歴がいつでも確認できる」「深夜・休日でも発注できる」「入力ミスが防げる」など、取引先側のメリットを具体的に示す
- 移行率の目標を段階的に設定する:初年度50%、2年目70%、3年目90%のように、段階的な目標を設定し、営業がKPIとして追える形にする
懸念② 営業が反発する
「自分の仕事が奪われる」という誤解が反発の根本原因です。この誤解は説明で解消できますが、説明の仕方が重要です。
やってはいけない説明:
- 「受注処理が自動化されるので、今後は別の業務をやってもらいます」→ 役割の剥奪と受け取られる
- 「システムで対応できるので、人員削減も視野に入れています」→ 反発が確定する
有効な説明:
- 「今やっている受注処理の時間を、提案活動に使えるようにする。そのための投資です」
- 「EC導入後の営業の役割はより重要になります。取引先の移行サポート・データを使った提案・新規開拓——これらは人間にしかできない仕事です」
- 「評価の軸も変えます。処理件数ではなく、創出した売上で評価します」
懸念③ 例外対応が営業に集中する
「ECで対応できない注文が全部営業に回ってくる」という懸念も現実的です。
これを防ぐには、導入前の設計段階で「頻出例外のシステム化」をしておくことが必要です。月10件以上発生する例外(ロット割れ・分納・特別値引きの申請など)はシステムで対応できる設計にしておく。EC外で対応すると決めた例外については、「誰が・どのフローで・何時間以内に」対応するかを明確に決めておくことで、「例外対応が野放しになる」状態を防げます。
移行期の設計:営業の協力を得るために必要なこと
EC導入後に「業務が減った」という体験を営業担当者に感じてもらうには、移行期の設計が重要です。
- 1
移行対象取引先をリスト化し、担当を決める
「このお客様のEC移行は○○さんが担当する」という形で、移行を明確なタスクとして担当者に割り当てます。「誰でもいい」にすると誰もやりません。
- 2
取引先ごとの移行期限を設定する
「半年後までに○社をEC移行する」というKPIを設定し、営業会議で進捗を追います。漠然とした「なるべく早く」は機能しません。
- 3
移行後の業務イメージを事前に示す
「○社がEC移行した後、担当者の業務は具体的にどう変わるか」をシミュレーションして共有します。「処理時間が月○時間減り、その分を提案活動に使える」という具体的なイメージを持てるかどうかが、協力姿勢に影響します。
- 4
移行完了の「成功体験」を早期に作る
EC移行が完了した取引先に対して「実際に業務がどう変わったか」を担当者から共有してもらいます。数件の成功体験が他の担当者の動機になります。
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よくある質問
EC導入後に営業人員を削減することになりますか?
それは経営判断です。ただし、「受注処理時間が減った分だけ人員削減する」という使い方は、BtoB-EC導入の価値を最小化します。受注処理から解放された時間を提案活動・新規開拓・既存顧客深耕に使えば、同じ人員で売上を増やせる可能性があります。「削減」ではなく「再配置」として設計する方が、組織としての成果は大きくなります。
取引先がEC移行を拒否した場合、どうすればいいですか?
強制移行は関係悪化のリスクがあります。段階的なアプローチが現実的です。まず「使ってみてください」という案内から始め、営業が移行のサポートをする。使ってみた取引先に「どこが使いにくいか」をヒアリングしてシステムを改善する。こうした地道なプロセスを通じて移行率を上げていきます。一方で、EC移行を前提とした取引条件(EC発注の場合の送料無料・優先出荷など)を設定することで、取引先側のメリットを増やす方法もあります。
営業担当者のITリテラシーが低く、ECの運用管理ができるか不安です。
営業担当者がシステムの「運用管理」をする必要はありません。ECシステムの管理・設定変更はシステム担当者やベンダーが行います。営業が関わるのは「取引先への移行サポート」と「データを見て提案活動に使う」の2点です。どちらも専門的なITスキルは不要です。「この顧客は最近発注が減っている」という情報を管理画面で確認する程度の操作は、一般的なWebサービスと変わりません。
EC導入で営業の役割が変わることを、どのタイミングで・どう伝えればいいですか?
導入決定後ではなく、導入検討段階から巻き込むことを推奨します。「現在の受注処理にかかっている時間を計測する」というタスクを営業担当者自身にやってもらうことで、「自分の時間の使われ方」への問題意識が生まれます。決定を知らされるのではなく、プロセスに参加している感覚を持てると、協力姿勢が変わります。
「営業の業務がどれくらい変わるか」——受注構造の整理から始めます
現在の受注処理にかかっている時間の計測・営業部門への説明の組み立て・移行設計の方針決め——導入前の準備段階からご相談いただけます。
投稿者プロフィール

- CEO
- 株式会社サンクユー 代表取締役CEO。
基幹システムとECをつなぎ、受発注業務の最適化を支援する専門家。
関西大学卒業後、東証プライム上場のゼネコンにて人事総務を経験。
その後システムベンダーへ転職し、IBM AS/400環境における金融・物流・販売管理・経理・人事など、企業の基幹業務を支えるシステム開発に従事する。
プログラマからプロジェクトマネージャーまでを経験し、台湾・台北駐在として銀行システム構築プロジェクトにも参画。
この経験を通じて、「システムの質は要件定義の質に比例する」という思想を確立。
業務理解を起点としたシステム設計を強みとする。
その後、クレジット決済代行会社にて、決済システムの再構築や銀行連携、ECサイト構築を担当。
あわせて組織改革にも携わり、20名から60名規模への組織拡大を実現(退任時:常務取締役)。
2008年に株式会社サンクユーを創業、2010年に法人化。
現在は、基幹システムとECの両領域に精通した知見を活かし、BtoB企業における受発注業務のデジタル化・効率化を支援。
特に、FAX・電話・メールなどアナログ業務のEC化や、基幹システムとの連携を前提とした業務設計を得意とする。
単なるECサイト構築にとどまらず、業務フローの整理・要件定義・システム設計まで一貫して関与し、「現場で使われる仕組み」を実現することを重視している。
NTTレゾナント「goo Search Solution」にてEC関連コラムを執筆。
ECマーケティングレポート | goo Search Solution
■趣味・関心領域
BMW / WRC / ロードバイク / RIZIN / UFC / 大相撲
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機動戦士ガンダム(富野由悠季)
ベルセルク / 頭文字D / 進撃の巨人 / ジョジョの奇妙な冒険 / あしたのジョー
Mission: Impossible / Memento / ワイルド・スピード / ソナチネ
LOST / Game of Thrones / FRINGE / The Mentalist
上岡龍太郎 / ダウンタウン









