BtoB-ECスモールスタートの正しいやり方|設計は徹底・実装は段階的にする理由と進め方

BtoB-ECスモールスタートの正しいやり方|設計は徹底・実装は段階的にする理由と進め方B2B-EC
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この記事でわかること
BtoB-ECの導入相談で両極端な判断をよく見ます。「将来を考えて最初から全部作りたい」と「コストを抑えてとにかく小さく始めたい」——どちらも間違いではありませんが、どちらも単独では失敗のリスクを持ちます。正しいのはその中間にある「設計は徹底・実装は段階的」という進め方です。本記事では、フェーズ分けの判断基準と各フェーズで決めるべきことを整理します。

堀川 治(株式会社サンクユー 代表取締役)
「スモールスタート」という言葉は便利すぎて、使い方を誤ると「設計の省略」と同義になります。実装を小さくすることと、設計を小さくすることは全く別物です。この区別が曖昧なまま進むと、後の改修コストで吸収されます。

2つの失敗パターン

BtoB-ECの導入設計には、対照的な2つの失敗があります。

失敗パターン典型的な判断結果
作りすぎ「将来必要になるかもしれない機能も今のうちに」「抜け漏れがないよう全部入れたい」開発期間の長期化・初期費用の膨張・使われない機能が増え保守負担が上がる・リリース後に「こんな機能は要らなかった」が発覚する
設計省略のスモールスタート「コストを抑えて最低限で始める」「細かいことは後で考えよう」価格ロジック・基幹連携・権限設計が後付けになり、構造変更を伴う改修が繰り返し発生する。後から直すほど割高になる

どちらも「今の判断を最適化しようとした結果」という共通点があります。作りすぎは「今想定できることを全部やる」最適化。設計省略は「今のコストを最小化する」最適化。いずれも将来の変化を正面から設計していない点で同じです。

「設計は徹底・実装は段階的」の原則

この2つの失敗を避ける原則があります。

設計は徹底的に行う。実装は段階的に行う。
受注フロー・価格ロジック・例外処理・基幹連携・将来シナリオは初期に徹底的に整理する。ただしその全部を初期フェーズで実装する必要はない。「将来追加できる構造」で、今必要な機能から始める。

これが「正しいスモールスタート」と「設計省略のスモールスタート」の違いです。

設計省略のスモールスタート正しいスモールスタート
受注構造の整理省略・後回し初期に徹底的に整理する
価格ロジックの設計「今のパターンだけ対応できれば十分」将来の複雑化を前提にしたデータ構造で設計する
基幹連携の方針「CSVでいい」で固定CSV連携から始めるが、API移行できる構造で設計する
初期の実装範囲小さい小さい
2年後の改修コスト高い(構造変更が必要)低い(追加・拡張で対応できる)

なぜ「作りすぎ」が起きるのか

「作りすぎ」には構造的な原因があります。単なる慎重さや完璧主義の問題ではありません。

  • 社内合意のコスト:関係部署が多いほど「あの業務はどうするのか」という声が出る。全員を納得させるために要件が膨らむ。「今回のスコープ外」と言い切れないまま進むと肥大化する
  • 後から作ると高いという懸念:「今まとめてやった方が安い」という判断は一見合理的。ただし「今は不要な機能」を作るコストと「後から追加するコスト」を正確に比較できている場合は少ない
  • 要件の出し方の問題:「現状の業務を全部洗い出す」アプローチをとると、レアケースも要件として上がってくる。頻出か否かの分類をしないまま要件一覧を作ると、自動的に肥大化する
  • ベンダー側のインセンティブ:初期費用が大きいほどベンダーの売上は上がる。「全部まとめてやりましょう」という提案は、顧客の利益と必ずしも一致しない
注意:「今回作る機能一覧を網羅的に作る」という進め方は、作りすぎに向かいやすい。「何が業務のボトルネックか」という問いから始める進め方に変えるだけで、要件の絞り込みが自然にできます。

フェーズ分けの判断基準

何をフェーズ1で実装し、何をフェーズ2以降に回すかの判断基準です。

機能・要件フェーズ1フェーズ2以降判断の軸
受注の主要フロー◎ 必須これがなければECとして機能しない
価格ロジック(主要パターン)◎ 必須主要取引先が使える状態にする
価格ロジック(拡張パターン)構造だけ設計◎ 追加実装データ構造は初期から拡張前提にしておく
頻出例外処理(月10件以上)◎ 組み込む運用補完コストが高いため初期から仕組み化する
レア例外処理(月1〜2件以下)運用対応△ 状況次第システム化のコストが運用コストを上回らない
基幹連携(CSV)◎ 推奨API移行できる構造で実装すること
基幹連携(リアルタイムAPI)△ 件数次第◎ 規模拡大後1日100件超・在庫精度が重要な場合は前倒し検討
権限設計(基本ロール)◎ 必須拡張できる構造で設計しておく
権限設計(承認フロー・部署別)構造だけ設計◎ 組織拡大後取引先が増えてから必要になるケースが多い
分析・レポート機能◎ 運用安定後稼働前は何を分析すべきか決まっていないことが多い

判断の核心は「業務が回るために必要か」「後から追加するとコストが大きく変わるか」の2点です。後から追加してもコストが変わらない機能は、フェーズ2以降で十分です。

3フェーズの進め方と各フェーズで決めること

フェーズ1:コア業務の実装

目標は「主要取引先が主要商品を発注でき、それが基幹に反映される」状態です。完璧である必要はありません。

  • 実装する:主要受注フロー・主要価格パターン・頻出例外処理・基本的な基幹連携(CSV可)・基本権限設計
  • 設計だけしておく(実装は後):拡張価格パターンのデータ構造・API連携の接続仕様・承認フローのロール設計
  • スコープ外にする:月1〜2件以下のレア例外・分析機能・BtoC併用・多言語対応
実務メモ
フェーズ1のリリース直後は、必ず想定外の運用問題が出ます。「この操作がわかりにくい」「このケースが処理できない」——これらは稼働してみて初めてわかることです。フェーズ1を小さくしておくほど、この調整が軽くなります。完璧なフェーズ1より、素早く改善できるフェーズ1の方が、結果として早く業務が安定します。

フェーズ2:頻出例外と連携の強化

フェーズ1の稼働から3〜6ヶ月後が目安です。実際に運用して見えてきた問題を設計に反映します。

  • 対象:フェーズ1で「運用でカバー」していた頻出例外のシステム化・注文件数増加に伴う基幹連携の強化・新たに必要になった価格パターンの追加
  • 判断のポイント:稼働後の実データを見て「どの例外が何件発生しているか」「どの手作業に何時間かかっているか」を計測してから優先順位を決める

フェーズ1で設計の余白を作っておけば、この追加は低コストで実施できます。設計省略のスモールスタートとの差がここで出ます。

フェーズ3:高度化・分析・拡張

フェーズ2の安定後、事業の成長に合わせて必要なものを追加します。

  • リアルタイムAPI連携への移行
  • 承認フロー・部署別権限の追加
  • 受注データの分析・ダッシュボード
  • 新商材カテゴリ・新取引形態への対応
  • BtoC併用・多言語対応(事業拡張の場合)

フェーズ3の内容は、フェーズ1・2の稼働実績と事業の方向性を見てから決めます。導入前に「フェーズ3でこれをやる」と固めすぎると、実態に合わない計画になります。

設計で先に決めておくべきこと

フェーズ分けが機能するためには、実装前の設計工程で以下を決めておく必要があります。実装フェーズを分けても、設計が省略されていれば後から直す羽目になります。

  1. 1

    受注フローの全体像を書き出す

    現在の受注フロー(FAX・電話・メール)を洗い出し、誰が何をどのタイミングでやるかを可視化します。この整理なしに設計に入ると、後から「聞いていなかった処理」が次々と出てきます。

  2. 2

    価格ロジックを全パターン書き出し、将来の増加を前提に設計する

    今の価格パターンを全件書き出した上で、「3年後にどう変化するか」を想定します。今は3パターンでも、将来10パターンになる構造なら、10パターンに耐えるデータ設計で初期から作ります。

  3. 3

    例外処理を「頻出・レア・EC外」の3種類に分類する

    月10件以上の頻出例外はフェーズ1で仕組み化。月1〜2件以下はフェーズ2以降か永続的に運用対応。ECの外で処理する例外(高度な交渉が必要なものなど)は明確にEC外と定義します。

  4. 4

    基幹連携の将来方針を決めておく

    フェーズ1でCSV連携を使う場合でも、「フェーズ2でAPI連携に移行する」方針なら、EC側のデータ構造をAPI連携前提で設計します。この方針を最初に決めておかないと、移行時に大規模改修が必要になります。

よくある質問

フェーズ1の範囲はどうやって決めればいいですか?

「主要取引先(上位20〜30%)が主要商品(受注件数上位80%)を発注でき、それが基幹に反映される」状態をフェーズ1のゴールにするのが基本です。全取引先・全商品・全パターンに対応しようとするとフェーズ1が肥大化します。まず「これだけ動けば月次の業務が回る」という最低ラインを定義することから始めてください。

段階設計にすると、フェーズ1とフェーズ2の間で取引先に混乱が生じませんか?

取引先への影響は、フェーズ1でカバーする取引先の範囲設計で決まります。フェーズ1では主要取引先のみを対象にし、フェーズ2以降で対象を広げる進め方が一般的です。フェーズ1稼働後に機能追加・改善が入ることは、取引先に事前に伝えておくことで混乱を防げます。むしろ完璧を目指して長期化したリリースの方が、取引先への影響期間が長くなります。

「設計は徹底的に」というのに、具体的にどれくらいの時間をかけるべきですか?

プロジェクト全体の工程のうち、設計・要件定義に20〜30%程度かけるのが目安です(開発規模によって異なります)。感覚として、「受注フロー図と価格ロジック一覧が完成し、ベンダーと合意できている状態」になるまでを設計工程とみてください。この状態で開発に入れているかどうかが、後の改修頻度に直結します。

フェーズ分けをベンダーに提案したら「一括で設計した方が安い」と言われました。どう判断すればいいですか?

「フェーズをまとめると開発効率が上がる」は事実の面もあります。ただし「今は不要な機能」を含めた一括開発は、不要な機能のコストを先払いすることです。ベンダーの主張が「まとめると効率的」なのか「まとめると売上が大きい」なのかを見極めてください。「フェーズ2の機能を今作る場合と、6ヶ月後に追加する場合の費用差」を具体的に出してもらうと判断しやすくなります。

「どこまでフェーズ1で作るべきか」——一緒に整理します

受注構造の整理・価格ロジックの棚卸し・フェーズ分けの判断。「何から手をつければいいかわからない」段階でのご相談も歓迎します。構築の押し売りは一切しません。

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投稿者プロフィール

OSAMU HORIKAWA
OSAMU HORIKAWACEO
株式会社サンクユー 代表取締役CEO。
基幹システムとECをつなぎ、受発注業務の最適化を支援する専門家。

関西大学卒業後、東証プライム上場のゼネコンにて人事総務を経験。
その後システムベンダーへ転職し、IBM AS/400環境における金融・物流・販売管理・経理・人事など、企業の基幹業務を支えるシステム開発に従事する。
プログラマからプロジェクトマネージャーまでを経験し、台湾・台北駐在として銀行システム構築プロジェクトにも参画。

この経験を通じて、「システムの質は要件定義の質に比例する」という思想を確立。
業務理解を起点としたシステム設計を強みとする。

その後、クレジット決済代行会社にて、決済システムの再構築や銀行連携、ECサイト構築を担当。
あわせて組織改革にも携わり、20名から60名規模への組織拡大を実現(退任時:常務取締役)。

2008年に株式会社サンクユーを創業、2010年に法人化。
現在は、基幹システムとECの両領域に精通した知見を活かし、BtoB企業における受発注業務のデジタル化・効率化を支援。
特に、FAX・電話・メールなどアナログ業務のEC化や、基幹システムとの連携を前提とした業務設計を得意とする。

単なるECサイト構築にとどまらず、業務フローの整理・要件定義・システム設計まで一貫して関与し、「現場で使われる仕組み」を実現することを重視している。

NTTレゾナント「goo Search Solution」にてEC関連コラムを執筆。
ECマーケティングレポート | goo Search Solution

■趣味・関心領域
BMW / WRC / ロードバイク / RIZIN / UFC / 大相撲
David Bowie / blur / MUSE / The Rolling Stones / XTC
機動戦士ガンダム(富野由悠季)
ベルセルク / 頭文字D / 進撃の巨人 / ジョジョの奇妙な冒険 / あしたのジョー
Mission: Impossible / Memento / ワイルド・スピード / ソナチネ
LOST / Game of Thrones / FRINGE / The Mentalist
上岡龍太郎 / ダウンタウン

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