BtoB-ECの改修費用が毎年膨らむ会社に共通する構造問題|改修サイクルを断ち切る視点

BtoB-ECの改修費用が毎年膨らむ会社に共通する構造問題|改修サイクルを断ち切る視点B2B-EC
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この記事でわかること
BtoB-ECを導入して1〜2年、「また改修費用が発生した」という状況が続いていませんか。再構築を迫られるほどではないが、毎年数十万〜数百万円の改修予算が消えていく。この「じわじわしたコスト出血」は、個々の改修内容の問題ではなく、設計の構造問題です。本記事では、改修が止まらない根本原因と、そのサイクルを断ち切るための視点を整理します。

堀川 治(株式会社サンクユー 代表取締役)
「改修自体は仕方ない」と思っている方が多い印象です。ある程度はそうです。ただ、「想定外の構造変更を伴う改修」が毎年続く場合は、仕方なくはない。設計段階で予防できたはずの改修が積み上がっている状態です。

「想定内の改修」と「設計不足による改修」は別物

改修がゼロになることはありません。事業が変われば、システムも変わります。これは正常です。

問題は、その改修の性質です。

改修の種類内容評価
想定内の拡張新機能の追加、新しい取引形態への対応、UI改善など、事業成長に伴う機能拡張✓ 正常。設計に余白があれば低コストで対応できる
設計不足による構造変更価格テーブルの再設計、基幹連携の作り直し、権限設計の根本的な変更など✗ 本来は初期設計で防げた改修。コストが高く、他の部分にも影響が波及する
運用補完のシステム化「とりあえず手作業でカバー」していた処理をシステム化する改修△ 初期設計で仕組み化できていれば不要だった。後付けは割高になる

「毎年改修費用が発生している」という会社の多くは、2番目と3番目の改修が大半を占めています。これらは個々の改修の問題ではなく、初期設計の構造問題が繰り返し表面化しているものです。

改修が止まらない6つの構造パターン

① 価格ロジックを「その都度対応」にした

最も多いパターンです。導入時は「顧客別の掛率設定ができれば十分」という判断で設計した価格管理が、事業の成長とともに追いつかなくなります。

具体的な経過としてこういうことが起きます。

  1. 当初:顧客A社は80%、B社は75%という掛率管理で運用開始
  2. 半年後:「数量が多い場合はさらに5%引きにしたい」→価格プラグイン追加(改修①)
  3. 1年後:「期間限定のキャンペーン価格を設定したい」→改修②
  4. 2年後:「営業が交渉した特例単価をECに反映したい」→基幹との価格連携が必要に(改修③、工数大)
  5. 3年後:価格の複雑化が管理限界に達し、価格テーブルの再設計が必要になる(大規模改修)

各改修は「その時の課題に対応する」ものですが、根本の問題は初期設計で価格ロジックの複雑化を前提にしていなかったことです。将来の価格パターン増加を想定したデータ構造で始めていれば、②③は追加設定で対応でき、改修費用が発生しなかった可能性があります。

② 例外処理を運用でカバーし続けた

「ロット割れは電話で確認」「分納は担当者が手動で処理」「特別値引きはメールで申請」——導入時にこうした運用ルールを作った場合、それは時限爆弾です。

頻出例外を運用でカバーし続けると、以下のコストが積み上がります。

  • 人的コスト:担当者の処理時間が毎日発生し続ける
  • 引き継ぎコスト:担当者が変わるたびに「暗黙のルール」の伝達が必要になる
  • ミスコスト:手作業の増加に比例してミスが増え、取引先からのクレームが増える
  • 後付けシステム化コスト:限界が来た時点でシステム化する改修費用が発生する。初期から設計するより割高になる
判断の基準:月に10件以上発生する例外は「例外」ではありません。頻出パターンです。導入時に「これは頻出か、それとも本当にレアケースか」を分類する工程が、後の改修コストを大きく変えます。

③ 基幹連携をCSV運用で固定した

スタート時はCSV連携で十分なケースは多い。問題は「CSV連携で固定してしまう」ことです。

CSV運用のまま注文件数が増えると、以下が発生します。

  • CSV加工・インポート作業の工数が注文数に比例して増える
  • インポートのタイムラグで在庫誤差が増え、欠品注文のキャンセル対応が増える
  • 取引先から「リアルタイムの在庫確認がしたい」という要望が来る
  • API連携への移行を検討するが、EC側・ERP側の双方に大規模改修が必要になる

最後の「API連携への移行改修」が高コストになる理由は、EC側のデータ構造がCSV前提で作られているためです。最初から「CSV連携で始めるが、将来API連携に移行できる構造」で設計しておけば、移行コストを大幅に圧縮できます。

④ 標準機能に無理に合わせた

「カスタマイズ費用を抑えるため、標準機能でできる範囲で設計する」という判断は合理的に見えます。ただしBtoB特有の要件を標準機能に無理に合わせると、後から歪みが出ます。

典型的な歪みの例です。

  • 顧客別価格を「会員グループ」で管理した結果、グループが乱立して管理不能になる
  • 商品バリエーションを標準の商品複製で対応した結果、商品マスタが数倍に膨れ上がる
  • 承認フローをメモ欄や管理画面のステータスで代替した結果、処理のトレーサビリティがなくなる

これらはいずれも「今は動いている」状態ですが、規模が拡大した時点で構造ごと作り直す改修が必要になります。初期のカスタマイズ費用をケチった結果、後から数倍のコストで対応することになります。

⑤ 権限・ロール設計を後回しにした

導入時の取引先数が少ない場合、「管理者と一般ユーザーの2種類で十分」という判断になりがちです。しかし事業が拡大すると権限の粒度が足りなくなります。

  • 支店・部署ごとに発注権限を分けたい
  • 特定商材は特定の担当者しか発注できない設定にしたい
  • 一定金額以上の発注は上長承認フローを通したい
  • 代理店経由の取引先は閲覧のみ・発注不可にしたい

権限設計を2択で実装してしまうと、これらへの対応がすべて「追加改修」になります。ロール設計に柔軟性を持たせておくだけで防げる改修です。

⑥ 設計工程を省いて開発を急いだ

「とにかく早くリリースしたい」という要求に応えるため、受注構造の整理・価格ロジックの棚卸し・例外処理の分類を省略して開発に入るケースがあります。

この場合、設計で整理されなかった問題がすべて「仕様変更」という形で開発中・リリース後に出てきます。

注意:設計工程の省略は「早くリリースできる」のではなく「設計コストを改修費用として後払いする」ことです。設計に1ヶ月かけても防げる改修が2〜3件あれば、トータルコストは設計に時間をかけた方が低くなります。

改修費用の「見えにくいコスト」

改修費用として計上されるのは開発費用だけです。ただし実際のコストはそれだけではありません。

コストの種類内容計上されるか
開発費用ベンダーへの改修費用✓ 見える
要件整理・仕様確認の工数社内担当者が改修要件をまとめ、ベンダーと仕様を確認する時間△ 人件費として見えにくい
テスト・検収の工数改修後の動作確認・取引先への影響確認△ 見えにくい
運用変更の周知コスト改修によって変わった操作を取引先・社内に周知する工数✗ ほぼ計上されない
並行運用コスト改修中・改修直後に旧運用と新運用を並行させる期間の業務負荷✗ 計上されない
機会損失改修対応に追われ、他の業務改善・新規施策に時間を使えない✗ 計上されない

開発費用だけで計算すると「年間100万円の改修費用」でも、上記を含めると実質的なコストは2〜3倍になっているケースが少なくありません(推測値。状況により異なります)。

改修サイクルを断ち切る3つの視点

改修が積み上がっている状態から抜け出すには、個々の改修に対応し続けるのではなく、構造問題を診断して手を打つ必要があります。

  1. 1

    改修の「種類」を分類する

    過去1〜2年の改修履歴を「想定内の拡張」「構造変更を伴う改修」「運用補完のシステム化」に分類してみてください。後者2つが多い場合は、構造問題を疑うべきです。改修の内容ではなく種類を把握することで、どこに根本原因があるかが見えてきます。

  2. 2

    「改修予算」の使い方を変える

    毎年の改修予算を個々の改修対応に使い続けると、構造問題は解決されません。ある時点で「今年の改修予算を構造改善に使う」という判断が必要になります。100万円を小さな改修10件に使い続けるより、設計を見直す1件の投資に使う方が、翌年以降の改修費用を下げる可能性があります。

  3. 3

    現状の設計の「どこが根本問題か」を診断する

    自社だけでは判断が難しい場合、セカンドオピニオンを活用してください。現行ベンダーは改修で収益を得ている立場でもあるため、「構造問題がある」とは言いにくい面があります。第三者の視点で「どこを直せば改修が減るか」を診断することで、改修サイクルを断ち切る具体的な手が見えてきます。

よくある質問

改修が多い状態は「再構築」を検討すべきサインですか?

改修の種類によります。「構造変更を伴う改修」が繰り返し発生している場合は、部分改修での対応に限界が近づいている可能性があります。一方、機能追加や画面改善の改修が多い場合は、現行システムの構造自体は機能しており、再構築は不要なケースが多い。まず改修の種類を分類することが判断の出発点です。再構築か改修かの判断についてはこちらの記事も参照ください。

現行ベンダーに「構造問題を診断してほしい」と依頼できますか?

依頼自体はできます。ただし現行ベンダーは改修で収益を得ている立場でもあるため、「構造問題がある」という診断を出しにくい面があります。また、自社が構築した設計への客観的な評価が難しいケースもあります。こうした場合にセカンドオピニオンが有効です。第三者の立場で現行設計を診断し、改修が減る方向の改善提案をすることが目的です。

スモールスタートは間違いですか?

間違いではありません。問題は「スモールスタート」と「設計の省略」を混同することです。機能をスモールにすることと、設計をスモールにすることは別物です。機能は最小限でも、価格ロジックの構造・基幹連携の方針・権限設計の余白は、将来の拡張を前提に設計しておくべきです。「後で追加できる構造」で最小限の機能から始めるのが正しいスモールスタートです。

改修費用を削減するために、ベンダー変更は有効ですか?

構造問題の原因がベンダーの設計力にある場合は、ベンダー変更が有効な場合があります。ただし、現行システムの構造問題が解決されないままベンダーだけ変えると、同じ問題が繰り返されます。ベンダー変更の前に「改修が多い根本原因はどこにあるか」を診断することが先決です。

「この改修サイクル、どこかで断ち切れますか?」——診断から始めます

毎年の改修費用が構造問題によるものか、それとも正常な事業成長に伴うものかを切り分けます。現行システムの設計を診断した上で、改修が減る方向の具体的な改善提案をします。構築の売り込みは一切ありません。

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投稿者プロフィール

OSAMU HORIKAWA
OSAMU HORIKAWACEO
株式会社サンクユー 代表取締役CEO。
基幹システムとECをつなぎ、受発注業務の最適化を支援する専門家。

関西大学卒業後、東証プライム上場のゼネコンにて人事総務を経験。
その後システムベンダーへ転職し、IBM AS/400環境における金融・物流・販売管理・経理・人事など、企業の基幹業務を支えるシステム開発に従事する。
プログラマからプロジェクトマネージャーまでを経験し、台湾・台北駐在として銀行システム構築プロジェクトにも参画。

この経験を通じて、「システムの質は要件定義の質に比例する」という思想を確立。
業務理解を起点としたシステム設計を強みとする。

その後、クレジット決済代行会社にて、決済システムの再構築や銀行連携、ECサイト構築を担当。
あわせて組織改革にも携わり、20名から60名規模への組織拡大を実現(退任時:常務取締役)。

2008年に株式会社サンクユーを創業、2010年に法人化。
現在は、基幹システムとECの両領域に精通した知見を活かし、BtoB企業における受発注業務のデジタル化・効率化を支援。
特に、FAX・電話・メールなどアナログ業務のEC化や、基幹システムとの連携を前提とした業務設計を得意とする。

単なるECサイト構築にとどまらず、業務フローの整理・要件定義・システム設計まで一貫して関与し、「現場で使われる仕組み」を実現することを重視している。

NTTレゾナント「goo Search Solution」にてEC関連コラムを執筆。
ECマーケティングレポート | goo Search Solution

■趣味・関心領域
BMW / WRC / ロードバイク / RIZIN / UFC / 大相撲
David Bowie / blur / MUSE / The Rolling Stones / XTC
機動戦士ガンダム(富野由悠季)
ベルセルク / 頭文字D / 進撃の巨人 / ジョジョの奇妙な冒険 / あしたのジョー
Mission: Impossible / Memento / ワイルド・スピード / ソナチネ
LOST / Game of Thrones / FRINGE / The Mentalist
上岡龍太郎 / ダウンタウン

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